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コンディションを創造する

 

 

 


仮名【体験型食空間】


キャプション


20xx年、○月○日。


彼は、いつものように仕事に出かけた。


仕事は、いつも単調だ。


この厨房にも、この客席にも、

この土地にも、


そして、自分が創り出すこの料理にも飽き飽きした。




どうしてこの先に進めないのだろうか?


最高の感動体験をしてほしい。


【未だかつてない食の体験を僕は想像し、創造したいんだ。】


突然、彼はスタッフにこう告げた。

【もう全てのことに飽き飽きしたので、今日をもって全てをやめる】







彼は、本気だった。

すぐに車を走らせた。


彼は、海を探し、山を探し、畑を探し、森を探した・・・。


あての無い旅ではない。


彼の中には、明確なイメージがあった。




最高の美味しさを普通の環境で提供するには限界がある。


誰もが見落としていることがある。


誰もが、目の前の料理が最高であれば、

最高に感動してくれる・・と思いこんで疑いもしない。


彼は、ずっと前からそれが疑問だった。

そして、そこを疑っていた・・・




何故、食べる側の状態を知ろうとしないんだ?




食材も最高、設備も最高、スタッフも一流を集め、

最高の仕事が出来るようにこれ以上ない労働環境も用意した。


でも、料理は出して終わりではない。


最終ミッションは、相手を感動させることだ。


でも、相手が今どのような状態であるかについて、

我々は知ろうとしていなかった・・・


ずっと疑問だった点は、そこだ!




僕は、まずそこから考え直した。




“最高のコンディションを相手に与えることから始めよう”





勿論、自分の体調ではない見ず知らずのお客様のコンディションを

コントロールすることは、もはや料理人の範疇ではない。

しかし、

範疇を越えていかない限り、新しい可能性は生まれない。




自分が料理人であり、その本分がなんであるかを決めるのは、自分でしかない。

まずは、自分の中にある【料理人】というフォーマットを壊していくことからはじめよう。




彼は、究極のガストロノミーを探求すべく、

新しいスタイルの宿泊型レストランを創ることにした。


ホテルでも、レストランでも、オーベルジュでもない・・・

既存の呼び方やカテゴリーは、もはやどうでもいい。




皿の上・・という小さな枠からはみ出し、

箱全体・・いや、環境も含め、

全てを料理の一部と捉える感覚が必要だ!


それは、過ごす時間が全てコースの一部であることをテーマにした、

“宿泊体験型美食空間”である。




いくつか新たらしい試みがあるが、

目玉となっているのが、

【お客様のコンディションを創造する】という試みだ。




我々がターゲットにしている顧客層は、

普通の人ではない。


プロ、ジャーナリスト、富裕層、

そうした世界中の一流ホテルやレストランを知り尽くしている人たちだ。


そういうお客様は、決まって暴飲暴食・・・

連日、外食が続いている人も珍しくない。


そういう人は、

基本忙しくて、時間に制限もあったり、

旅で疲れていたり、

当然、食べることにも疲れていたりする・・・。




提供する側としては、

それだけ、状態が悪いところからスタートしないといけない。




それを前提に、ディナー前日の体調と精神状態から

こちらでコントロールする試みだ。


宿に着いたその瞬間から、

実は、この店のコースは始まっている・・・


お客様は、そのことには全く気付いていない。







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お客様が到着。


この施設には、チェックインはない。


コンシェルジュが笑顔で迎え、


まず、真っ直ぐにある場所へと通される。


この場所の一番の決め手となった、

【聖なる湧水】の場所だ。




お客様の今の感情は?

早く、ゆっくりしたい。

早く、座りたい。

早く、渇いたのどを潤したい・・


その感情をぐっと我慢していただき、

彼女は、手短にテンポよく、

こんな話をする。




この土地の歴史背景。

この水の神話。

この水の効能。

この水が全ての調理に使用されている話。


全ては、ここから始まる。


“人の感情をデザインする”ことをテーマにしている我々の

もっとも重要なパーツが、この水のくだりだ。




この儀式によって、

全てのお客様は、リセットされ、そして引き込まれる。


説明も早々に、部屋に案内されると、

さきほどの水が“完璧な温度”でサーヴィスされる。




窓からは、海。

逆サイドの窓からは、畑と牧場、そして山。




壮大な自然を背景に、

完璧に調和された室内のデザイン。




そして、寛ぐことにもひと段落した頃合いで、

ふとテーブルに置いてある“カード”が目に留まる。




開いてみると【ここでの過ごし方】が明記されている。





我々のミッションとお客様の目的がひとつであることを

確認し、その為に準備して頂きたいことや注意してほしいことが

簡潔に書かれている。





ここに訪れる時点でお客様も十分にそれを理解した上で、

予約されており、その具体的な内容がそこには示されている。




全ては、明日のディナーに向けての準備であることを・・・





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我々チームには、明確な役割分担がある。


・総合ディレクター

・シェフ・クリエイティヴ

・シェフ

・部門シェフ

・キュイジニエ

・アート・ディレクター

・音響デザイナー

・グラフィックデザイナー

・空間ディレクター

・照明デザイナー

・サーヴィス・ディレクター

・サーヴィス

・コンシェルジュ

・フード・アシスト

・メンタル・デザイナー

その他、宿泊と温泉、スパには、

それぞれの担当者がいる。


宿泊は、10部屋オールスイート。

1室4名まで可能で、

最大で40名。最小で20名。1名は受けない。




・・・


具体的なルール説明が終わり、

夕食までは、特に何もない・・・


時間にして3,4時間程度は自由である。

散歩する者、

温泉へ行く者、

スパに行く者、

部屋で寛ぐ者・・・





宿泊当日の夕食は、

質素である。


内容は、実に計算されたものが提供される。


ここでも、お客様には、意図は伝えない。


しかし、この夕食は、

明日のディナーと繋がっている。


全ては、新しい感動の為。




そして、

翌日を迎える。


この時点で、バラバラだったお客様の状態が、

大まかに同じラインで揃う。




ここにいるお客様全員に、

同じ施術を行い、同じ空間で、同じ夕食を食べ、

同じ時間の流れを感じてもらった。

その成果が出始めるのは、

丁度、この【翌日の朝】というラインである。




ここにはもう、疲れている人もいないし、

食べ過ぎの人も飲み過ぎの人もいない。

イライラしている人も、懐疑的な人もいない。


リラックス、安堵感、解放感、期待感・・・

空腹すぎる訳でもなく、勿論満腹なワケもない。

色々な仕掛けによって、それ以外にも、

味覚、嗅覚、視覚など【感じる】能力が高まるように、

前日から仕込みされている。




前日から仕込まれているのは、それだけじゃない。

お客さまには“渇望”を与えている。




これは、我々にとってとても重要な“キーワード”である。


意図的に“渇望”を創りだし、提供しているのだ。







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朝食も選択脚はない・・

朝、お客様には同じ時間、同じ場所、

同じメニューを食べて頂くシステムになっている。




朝食を終えて、ランチタイムまでは自由だが、

昼食も基本、朝食と同じライン。

皆が揃って同じもの。




ここまで来ると、いよいよ少し苦痛になる者も出てくる。


ここが限界。


普段、我儘な人たちが多いここの顧客にとって、

楽しくルールを受け入れながら、渇望を与えられる【限界】が丁度このあたり。


しかし、丁度このラインが来店して24時間経過のラインでもある。


朝の時点で大体揃っていた【状態】もここまで来ると

ほぼ完全に揃い始める。




ここからが最後の仕上げだ。





昼を終えた、14時から17時までの3時間は、

行動制限と食事制限がある。


間食はNG。

飲み物は水のみで500ccまで。


行動は、宿泊施設の周りを囲む、

海、山、畑、牧場・・

この4か所を案内。




今夜のディナーは、すべてこの4か所から生まれた食材だ。


お客さまには、全ての食材を実際に見て感じてもらう。


この4か所には、【フード・アシスト】がそれぞれ常駐してて、

海には海のプロ。

山には山のプロがおり、

食材の背景、性質、どのような料理になるのか・・

そして、いつ採れたものをどの温度でどのように提供すると

最大限ポテンシャルを生かせるのかを説明する。


しかし、どのエリアにいっても、

試食はさせない。


渇望と期待感、そして空腹だけがどんどん加速する。





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18時ジャスト

とうとうディナーが開始される時間が来た。




一同に、メインのレストラン空間に集まる。




お膳立ては全て完璧に出来上がっている。


ここからが彼らの出番だ。


ここでは、料理ごとに【照明】も【音楽】も変化する。


レストランスタッフ以外にも、

そうした演出を担うプロがこの瞬間の為に準備をしている。




いよいよディナーがスタート・・・










第二部へ続く・・・。







この物語はフィクションです。


ただの私の妄想です・・(笑


 

 

 

 

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