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目の前に在る道

 
ずっと考えていることがある。

我々、料理人の世界は、皆同じようなことを言い、

同じような経験や目標を持ちがちだ。

新卒である有名店に入り、

基礎を学んだあと、更に上を目指し、

もっとレベルの高い店、或いは、

海外の有名店の門を叩き、

修行を重ね、最終的には、独立を目指す。

概ね、王道パターンとうか、まぁ・・ありがちであり、

特に、良くない点もないので、誰も否定もしない。

“そうね・・まぁ・・うん、いんじゃない”

そんなところだろうか。

僕には、全くと言っていいほど、そういう思想も思考もないので、

それがいいも悪いも思わない。

最終的には、その人の人生観であり、

その人の【個】の問題でしかないからだ。

逆に言えるのは、【個】の問題である故、

どんな環境で、どんな場所で修行をしようが、

最終的には、【個】の問題であり、

ダメな人は、ダメ。

上手くいく人は、上手くいく。

それだけだ。

・・・

逆にこんなことを言う若い子がいたなら面白い。

シェフ:オマエさ、この先、どうするの?

スタッフ:そうですねー・・色々と考えてはいるのですが、

当然、別の環境でも働いてみたいですし、

もっと上を目指したいという気持ちもあります。

そして、一度日本を離れてみて、

海外のレストランでも仕事をしてみたいという、好奇心もあります。

でも、職場を変え、環境を変えて得られることも多いとは
思うのですが、同じ場所で責任をもって働き、

その中で得られることもあるし、同じだけの成長やチャンス、

もしかすると、それ以上のことが続けることであるかもしれないと、

思うこともあり、迷っているのですが、

もし、僕がこのままここで、お店と共に成長し、

ずっと続けていきたいと言ったら迷惑でしょうか?

シェフ:う〜ん・・・なかなか・・だね。

と・・なかなかな意見を言うスタッフは、未だかつて見たことがない・・(笑

続けて

スタッフ:あと、考えたのですが、将来独立というのは、目標ではあっても、

果たしてそれが、その時の自分にとって最良であるかは、

その時じゃないと分かりません。もしかしたら、

今の環境での自己実現や自分に見合った職場環境があるかもしれませんし、

この先の時代を考えると、自分でやるよりも優良店に長く勤め、

そこで生活基盤を作るほうが良いかもしれません。

シェフ:はぁ〜・・確かにね・・

スタッフ:あと、更に思ったのですが、職場に残るメリットと

職場を移るメリットを考えたのですが、

もし、辞めて新しい職場に行った場合、新しい出会いがあり、

新しい技術や知識、それを踏まえた【経験】を

得ることが出来る一方で、

もう一度1からやり直す時間や賃金などの待遇面も1からとなり、

今と同等の環境を得ることは保証されません。

そう考えると、

今の環境下で新しいことにチャレンジしたり意欲を持って仕事に取組み、

職場を変えること以上の成長や経験を得ながら、

安定した収入を得ることの方が良い場合もあるように思います。

長く勤めたことのメリットを最大限に生かし、

将来の自分に投資する・・という考えもあっていいかと・・。

シェフは、どう思いますか?

シェフ:せやなっ・・・であれば、君と共に成長し、共に発展しよう!ってか・・・

・・・・・

というような、あり得そうであり得ないシェフとスタッフの会話なのですが、

こういう若い子がいたなら、僕の知る男気あるオーナーシェフの皆さんは、

一同に皆こう言うはずだ。

“うちの最近入った若い子で、すげーヤツがいるんだよね、うん、マジ凄いかも”

と言うはず。

ただ【凄い】というのは、表現として微妙で、

もしかしたら【変わったヤツ】というニュアンスかもしれない。

当然ながら、ごく一般的な修行の仕方には、それなりの利点があり、

一定の仕事を覚えたら、次の店に移り・・を4,5回繰り返し、

なんとなく自信がついたら独立という流れ。

ただ、誰もがその流れを当たり前に思っているような

料理の世界に違和感を感じるし、

そうじゃないヴィジョンの持ち方も改めて考える時代であるように思う。

僕は、独立することが、料理人にとって全てだという考えはないし、

それが、全ての料理人の夢であり、理想であり、幸福なことであるとは、

全く思わない。むしろ、その思想のお陰で悲惨になる人もいる。

ただ、それでも独立したい!と思う人が後を絶たないのも事実で、

もし、そうであることを前提に話すなら、

じゃーどうすることが独立する上で一番手っ取り早く、リスクも少なく、

最短なのか?と言えば、コロコロと職場を変えるよりも、

ちゃんとした店に長く勤めたほうがいい。

極論を言えば、

世界中を旅したことのある人の方が、知識、経験、人間性も素晴らしく、

ひとつの小さな村で一生を過ごした人は、何も知らず、人間的にも劣っているのか?

というと、絶対にそんなことはないのです。

同一上に並べて話すことではないのですが、ある種そういうようなことでもある。

・・・

僕の好きな話があって、

ある画家の人がこんな話をしていた。

その画家は、殆ど自分の住んでいる地域から出たことがないという。

そして、人生の殆どを自分の家の小さな庭を眺めて過ごしたという。

ある人がこんな質問をした。

【あなたは、時に風景を描いたり、様々な人物も描くが、

訊くとそのイメージは、全てこの庭からだと言うが、

モチーフを探す為に、遠くに足を延ばすことはないのか?】

すると、その画家は、こう答えた。

【あなたには、この庭に在るものが見えますか?

僕には、この小さな庭の中に、この世界、この宇宙、この世の在り方、

全てが集約されていることを知っているのです。

この世の営みの全てが、この小さな庭に在るのです。
僕には、それが見えます。
毎日ひとつとして同じ景色はなく、ひとつ夜を終え、

次の朝を迎えれば、また新しい世界がそこに在ります。

そうした日々の移り変わりの中に自分がいて、

その自分の在りようを感じ、僕はキャンヴァスに向かいます。

そこには、表現しきれないほどの沢山のものがあって、

十分過ぎるのです。これだけ満ち足りているのに、

わざわざ同じものを見る為に、

遠くを求める必要があろうはずがありません。】

これもまた、極端な話なのですが、

僕の中にこの画家の思考や思想がずっと在って、

何かを求める前に、まず足元を見る・・という習慣にもなってます。
目の前にあるものの価値を知り、目の前にあるものを大切にする。

十分にこと足りていることを知ることで、

はじめて見えてくる表現も在る。
外や他人に変化を求めがちだが、

実は、自分の中に全ての答えが在る。

もし、独立至上主義であるなら、

もっとも手っ取り早いのは、

点々と【点】の経験を積み重ねることより、

長く太く意味のある【線】の経験値のほうが、

よほど独立に役に立つ。

かのミッシェル・ブラスは、独学の料理人としても有名だが、

彼の唯一無二の思想というのは、

まさに、オーブラックへの敬意と祈りであったのではないか。

その村から離れず、その村で一生を過ごし、

その村を知り、愛することで生まれた思想ではないか?

王道の修行パターンから得られるものと、

そうではない修行の仕方とで、

得られる経験はそれぞれであるが、

最終的には、自己を育てる上で、

一番問題なのは、自分がどう在るかだけである。
そう考えると、

コロコロと環境ばかりを変える意味もなく、

目の前にある【場所】を大切にしたほうがよいと思う。

おのずと道は拓かれる。
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